「え、これが啄木?」
正直に言って、こんな啄木は想像していませんでした。
私が知っている文豪・石川啄木で思い浮かぶのは、「天才」「苦悩」「重たい人生」。
ところが幕が上がると、そこにいたのは「よく泣き、よく威張り、口は達者だが働かず、借金だらけ、家族に甘え続ける“どうしようもない男”」でした。
「俺はな、天才なんだよ。天才が、なんで毎日働かなきゃならないんだ」
威張っているのに、全然偉くない。言ってることが最低なのに、なぜか分かる気がしました。
「俺が苦しんでるのは、お前たちのためでもあるんだぞ」
正当化がうますぎます。完全に言い訳なのに、言い切られると黙って納得してしまう自分がいます。
「この国はな、正しい人間ほど貧乏になるようにできてるんだ。だから、俺が働かないのも無理はない。」
鋭い。一瞬、正論に納得しかけてしまったものの、全然かっこよくない。理屈だけは一流ですね。
「俺だって、ちゃんとした大人になりたかったんだよ」
威張らない、理屈を言わない啄木に心が痛みました。
啄木は決して立派ではなく、むしろ情けなく、言い訳ばかりで、家族を振り回します。それなのに、なぜか憎めない。舞台を観ながら、「ああ、こういう弱さ、確かに自分にもあるな」と胸をつつかれる瞬間が何度かありました。そう思いながら観ているうちに、不思議なことに目が離せなくなっていって、「素」の啄木世界にのめりこんでいきました。
貧乏・家族・文学・社会主義・・・・決して軽くない題材なのに、気づけば笑っている。しかし、その直後に、胸が痛む。それがこの芝居魅力だと感じました。
天才を称える物語ではなく、人間の弱さとみっともなさを、笑いと愛情で描く井上ひさしの世界。
観劇後、「自分も泣き虫で、なまいきかもしれないな」と、少しだけ優しい気持ちで帰路につきました。
平井達哉(87教育)








