10月30日の「演劇を知る会」は、こまつ座の『兄おとうと』。かなり前評判が良い舞台だったので、ぜひ観たかったのだが、勤務があり残念ながら観劇できず、終演後の宴会だけ参加した。通常の3倍入る巨大ジョッキを手に、大盛り上がりのなか、観劇後の皆さんからは「役者がとにかく素晴らしかった!」「内容も実に面白かった!」と、なかなかの高評価であった。
作品は井上ひさし作、鵜山仁演出。主人公は、大正デモクラシーの旗手として「民本主義」を唱えた兄・吉野作造と、官僚から政治家となった弟・吉野信次。思想も立場も正反対の二人が、顔を合わせれば議論、時には兄弟喧嘩を繰り広げる。しかも、それぞれの妻は仲の良い姉妹。政治の話に夫婦の話まで絡むのだから、家庭内もなかなか大変そうだ。
今回、何といっても注目したいのが個性豊かな俳優陣だ。聞くところによると、兄・作造を演じる横田栄司さんは、知性と信念を備えながら、どこか人間味のある人物を演じる実力派だそうで、弟役の岡本圭人さんとの対照的な兄弟関係も見どころだったと思われる。松角洋平さんは作造の暗殺を企てる青木存義役。物語に緊張感と騒動を持ち込む重要な存在だ。
そして、今回、観劇した女性から特に絶賛されていたのが平体まひろさんだ。演じるのは、信次を縛り上げて説教するという、何とも強烈な説教強盗の女・大川勝江。なかなか一筋縄ではいかない役だが、その個性的な人物を生き生きと演じ、舞台に強烈な印象を残したようだ。存在感のある演技はもちろん、表情や声、身のこなしまで、観客をぐっと引き込む魅力があったのだろう。残念ながら私は観ていないが、そこまで絶賛されると、いったいどんな演技だったのか、ますます気になってしまう。
さらに、兄の妻・玉乃役は彩吹真央さん、弟の妻・君代役は霧矢大夢さん。お二人は元宝塚歌劇団の男役スターで、しかも同期である。実は私、こう見えても宝塚が大好きな「ヅカ男子」。お二人が男役スターとして活躍していた時代から舞台を観てきた。かつての彩吹さんの品格と包容力、霧矢さんの抜群の歌唱力とダンス、豊かな表現力は、今でも強烈に印象に残っている。宝塚の男役は、声、立ち姿、目線、しぐさまで徹底して磨き上げる世界で、その経験で培われた表現力や舞台度胸が、現在の女優としての演技にもつながっているのだろう。かつての男役スター二人が、今度は姉妹を演じる。長年の宝塚ファンとしては、何とも感慨深い配役だ。
歌あり、踊りあり、ピアノの生演奏あり。笑いを交えながら、民主主義や言論の自由を問いかけるのも井上ひさし作品の真骨頂。大正時代の物語なのに、今の世の中にも通じるものがある。皆さんの話を聞くほどに、見逃したことが惜しくなってきた。次回はぜひ自分の目で確かめたい。(平井達哉)


